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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)3878号 判決 1980年2月27日

原告 中野敏雄

右訴訟代理人弁護士 大庭登

被告 株式会社千葉ケータリング・サービス 更生管財人 金沢敏夫

右訴訟代理人弁護士 成富安信

同 畑中耕造

被告 森美秀

右訴訟代理人弁護士 高柳貞逸

主文

一  原告の被告株式会社千葉ケータリング・サービス更生管財人金沢敏夫に対する主位的請求を棄却する。

二  被告更生管財人金沢敏夫は、原告に対し、金二八五七万三三四八円を支払え。

三  被告森美秀は、原告に対し、金五〇二万七八三七円とこれに対する昭和四八年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告の被告更生管財人金沢敏夫に対するその余の予備的請求及び被告森美秀に対するその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告更生管財人に対する主位的請求及び被告森に対する請求(物上保証人の求償権に基づく請求)

被告らは各自、原告に対し、金四〇二三万八七〇〇円及びこれに対する昭和四八年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告更生管財人に対する予備的請求(弁済者の代位に基づく請求)

被告更生管財人は、原告に対し、金二八五七万三三四八円及びこれに対する昭和四八年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、訴外株式会社千葉ケータリング・サービス(以下、訴外会社という。)と被告森美秀の委託を受け、訴外会社と訴外株式会社千葉相互銀行(以下、訴外銀行という。)間の昭和四三年一〇月二五日付相互銀行取引契約に基づき訴外会社が訴外銀行に対して負担することあるべき債務及び右債務につき被告森が負担することあるべき保証債務を担保するため、右同日、訴外銀行との間で、原告所有の別紙目録記載の不動産につき元本極度額一億四五〇〇万円の根抵当権設定契約を締結し、同日、その旨の登記をした。その後、昭和四四年四月三〇日、元本極度額について、これを一億七〇〇〇万円に変更する旨の合意をし、同年五月一五日、その旨の登記をした。

2  訴外会社は、昭和四三年一一月六日、前記相互銀行取引契約に基づき、訴外銀行から一億七〇〇〇万円を、損害金日歩五銭の約定で、借り受けた。

3  被告森は、右同日、右訴外会社の債務につき、訴外銀行との間で連帯保証契約を締結した。

4  昭和四七年六月一日、千葉地方裁判所木更津支部は、訴外会社に対し、更生手続開始決定をし、被告管財人が更生管財人に選任された。

5  原告は、訴外会社に対し、昭和四八年五月一五日、四〇二三万八七〇〇円を弁済した。

6  訴外銀行が右更生手続において届出をし、調査の結果確定された訴外会社に対する更生担保権等は、次のとおりである。

(一) 更生担保権 合計一億四九六二万五八四〇円(内訳)

(1) 貸金残元本 一億九六一万六〇〇〇円

(2) 日歩五銭の割合による昭和四六年六月一日から昭和四八年五月三一日までの損害金 四〇〇〇万九八四〇円

(二) 更生債権 一一六六万五三五二円

右割合による昭和四五年一一月一日から昭和四六年五月三一日までの損害金

(三) 劣後的更生債権

右割合による昭和四八年六月一日から完済までの損害金

7  原告が昭和四八年五月一五日弁済した四〇二三万八七〇〇円は、前項(二)の損害金一一六六万五三五二円と同(一)(2)の損害金のうち二八五七万三三四八円に充当された。

8  昭和四九年三月二〇日認可された更生計画において、前記6の訴外銀行の訴外会社に対する更生担保権等のうち、同項(一)の更生担保権は全額弁済されるべきものと定められ、同項(二)の更生債権及び(三)の劣後的更生債権は、いずれも全額免除された。

9  訴外会社が昭和四三年一一月六日訴外銀行から借受けた前記2の債務につき、同日、訴外笹井吉春、同安光宏が訴外銀行との間で連帯保証契約を締結した。

右債務を担保するため、昭和四三年一〇月二五日、訴外有限会社佐野不動産、同広野晴、同広野くに、同秋之猪次郎が各その所有する不動産につき訴外銀行を根抵当権者とする根抵当権設定契約を締結した。

10  右連帯保証人である訴外笹井吉春、同安光宏は、現在、行方不明又は外国に在住していて、いずれも償還をする資力がない。

11  結論

(一) 原告は、被告管財人に対し、次の金員の支払を求める。

(1) 主位的に、請求原因1、2、4、5により物上保証人の求償権に基づき、四〇二三万八七〇〇円

(2) 予備的に、訴外銀行に代位して、請求原因1、2、4、5、6、7、8に基づき二八五七万三三四八円

(3) 右(1)又は(2)に対する弁済をした日の翌日である昭和四八年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による法定利息

(二) 原告は、被告森に対し、物上保証人の求償権に基づき、次の金員の支払を求める。

(1) 請求原因1ないし3及び5により、四〇二三万八七〇〇円、もしくは、同1ないし3、5、9、10により、連帯保証人三名、物上保証人五名の頭数で弁済額を除した額に連帯保証人の頭数三を乗じた一五〇八万九五一一円、右10が認められないときは、連帯保証人三名の負担額の三分の一である五〇二万七八三七円

(2) 右に対する弁済をした日の翌日である昭和四八年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による法定利息

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実中、原告が被告森の委託を受け、同被告が負担することあるべき保証債務を担保するために根抵当権設定契約を締結したとの点につき被告管財人は不知、被告森は否認する。その余の事実は認める。

同2ないし4の事実は認める。

同5の事実は不知。

同6の事実は認める。

同7の充当関係は否認する。

同8の事実について、被告管財人は認める。

同9の事実について、被告森は認める。

同10の事実について、被告森は否認する。

三  抗弁

1  被告管財人の抗弁

請求原因5で原告が弁済したと主張する四〇二三万八七〇〇円は、更生計画において免除された損害金に充当された。

2  被告森の抗弁

原告は、昭和四八年五月一五日、訴外銀行に弁済して後、連帯保証人である訴外笹井吉春及び安光宏に求償を怠たり、その償還能力を失わしめたものであり、原告に過失がある。よって、民法第四四四条但書により被告森にその負担部分を求償することはできない。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1の事実は、原告が被告森の委託を受け、同被告が負担することあるべき保証債務を担保するために根抵当権設定契約を締結したとの事実を除き、当事者間に争いがない。右除かれた事実は、これを認めるに足る証拠がない。

同2ないし4の事実は、当事者間に争いがない。

同5の事実は、《証拠省略》により認めることができる。

同6の事実は、当事者間に争いがなく、同8の事実は、原告と被告管財人との間で、同9の事実は、原告と被告森との間でいずれも争いがない。

同10の事実は、これを認めるに足る証拠がない。《証拠省略》によると、安光宏は、昭和四七年五月一四日フランス国パリ市に国外移住していることが認められるが、この事実のみによっては、同人に資力がないと認めることはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。

二  以上の事実に基づいて、原告の被告管財人に対する請求について判断する。

1  (主位的請求について)

右1、2、5の事実によれば、原告が訴外会社に対し、弁済額四〇二三万八七〇〇円の求償債権及びこれに対する弁済をした昭和四八年五月一五日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による法定利息請求権を取得したことが明らかであるが、訴外会社につき更生手続が開始されたのであるから、右求償権の行使は更生手続上行なわなければならないところ、原告が、右求償権又は弁済前の将来の求償権につき、法定期間内の届出、更生債権者表への記載等法定の手続をとったことの主張立証はないから、原告の被告管財人に対する求償権に基づく本訴主位的請求は、理由がない。

2  (予備的請求について)

まず、原告が昭和四八年五月一五日弁済した四〇二三万八七〇〇円の充当関係について判断する。《証拠省略》によると、右同日現在、訴外銀行の訴外会社に対する昭和四三年一〇月二五日付相互銀行取引契約に基づく債権として、貸付元本残額一億九六一万六〇〇〇円、昭和四五年一一月一日から昭和四六年五月三一日までの損害金一一六六万五三五二円、同年六月一日から右弁済当日までの損害金三九一三万二九一二円(この額は、次の方法により算出した。《証拠省略》によると、更生担保権届出書の提出された昭和四七年六月二七日の残元本は一億九六一万六〇〇〇円であり、この額は以後変動がないと認められるから、この残元本に対する昭和四八年五月一六日から同月三一日までの日歩五銭の割合による遅延損害金は八七万六九二八円と計算される。《証拠省略》によると昭和四六年六月一日から昭和四八年五月三一日までの損害金は四〇〇〇万九八四〇円と計上されるから、これより、右八七万六九二八円を差引いて三九一三万二九一二円を得る。)が存したことが認められる。

被告管財人は、右弁済額は更生計画において免除された損害金に充当されたと主張する。《証拠省略》によると、原告と訴外銀行間の根抵当権設定契約において、根抵当物件の任意処分による取得金については、訴外銀行が、諸費用を差引いた残額を法定の順序にかかわらず、被担保債務の弁済に適宜充当できる旨の約定のあることが認められ、《証拠省略》によると、弁済された金員は、訴外銀行における訴外会社の別段預金口座に入金され、訴外銀行が、昭和四八年九月二六日に競売申立費用一〇七万九九七二円と昭和四七年一一月一日から昭和四八年九月三〇日までの損害金一八三〇万五八七二円に充当し、昭和四九年四月三日、同年九月三〇日、昭和五〇年四月三日、同年九月三〇日、昭和五一年三月三一日に昭和四八年一〇月一日から昭和五一年二月三日までの損害金に適宜充当したことが認められる。しかしながら、弁済は弁済時に現存する債務を消滅させる効果をもつものであるから、弁済として受領しながら、弁済時における債務消滅の効果を発生させず、後日に至り、弁済時以後に発生した損害金等に充当指定することは、たとえ適宜充当できるとの特約があっても、弁済の性質からして、法の許容しない充当指定であるといわなければならないから、訴外銀行がした右充当指定は無効である。

そうすると、右弁済金は、民法第四九一条により、訴外会社の前記債務につき弁済の費用、遅延損害金、元本の順序により充当されるところ、本件弁済の費用の額についての主張はなく、証拠上も明らかでない。もっとも、前記のとおり、訴外銀行は弁済金のうち一〇七万九九七二円を競売申立費用に充当していることが認められるが、その明細は本件証拠上明らかでなく、同金額が全て弁済費用として計上すべきものとにわかに断定できないので、費用への充当はこれを認めることができない。

昭和四五年一一月一日から弁済当日の昭和四八年五月一五日までに発生した遅延損害金が合計五〇七九万八二六四円となることは右に述べたとおりであるから、弁済金四〇二三万八七〇〇円は右損害金の発生した順序に従って右金額に満つるまでの損害金に充当されたものといわなければならず、原告は、これにつき、訴外銀行の訴外会社に対する遅延損害金請求権を弁済者の代位により訴外銀行から取得したものといわなければならない。

以上で述べたところと前記一で確定した請求の原因6、8の事実によれば、原告が右代位により取得した遅延損害金請求権のうち、認可された更生計画により全額免除されると定められた昭和四五年一一月一日から昭和四六年五月三一日までの分一一六六万五三五二円を除いた二八五七万三三四八円の遅延損害金請求権は、右更生計画により全額弁済すべきものと定められたことが明らかであり、右について、原告は、被告管財人に対し、その支払を請求できる。

原告は、右二八五七万三三四八円に対する弁済した日の翌日である昭和四八年五月一六日から支払ずみまで年五分の割合による法定利息をも請求するが、これについて原告が訴外銀行に代位することは認められない。

なお、原告と訴外銀行間の根抵当権設定契約において根抵当権設定者の弁済による代位についての特約があることは、被告管財人において主張を要する事項であるが、本件においては、右主張がないからこれを参酌しない。

三  被告森に対する請求

前記一で確定した請求の原因1ないし3、5、9の事実によれば、原告が、被告森に対し、物上保証人として弁済した額の八分の一に当たる五〇二万七八三七円とこれに対する弁済をした日の翌日である昭和四八年五月一六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による法定利息の支払を求める部分は理由があることが明らかであるが、その余の請求を理由ずける事実は認められない。

四  よって、原告の被告管財人に対する主位的請求を棄却し、被告管財人に対する予備的請求及び被告森に対する請求については、前記理由のある限度でこれを認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

なお、仮執行宣言の申立については、相当でないから却下する。

(裁判官 牧野利秋)

<以下省略>

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